2016年6月5日日曜日

世界遺産原生林の植物生態学 自然観察インストラクター講座in奈良公園

今日は自然観察インストラクター養成講座で、奈良公園世界遺産 春日大社原生林を歩いて植物生態学を学んできました。
講師は大阪府立大学名誉教授 佐藤治雄先生。午前中はまだ雨が残っていましたが、その鬱陶しさを感じないくらい深いお話を聞くのに集中していました。
まわりはシカに食べられて丈が短い草しか生えていないのに、鬱蒼としている場所を発見。
シカが好まないシダ類の植物だそうです。なかなか普通に歩いていても気づきません。
樹皮に草のような植物が生えている樹を発見。
ノキシキブというシダ類だそうです。育つのに必要な湿度・栄養素・日光量など条件がそろえうことにより、ニッチ(生物が生活できる地位)を獲得し生息できるのです。
ここで、ある程度の高さ以上にしかノキシキブが生えていないことから、これもシカに食べられているのかという疑問が生まれました。先生も分からないとのことだったので、受講者の1人がシカに与えたところしっかりと食べてくれました。
樹々の足元が綺麗に線を引いたようにずっと向こうまで見通せるようになっています。
鹿達が背の届く範囲の葉っぱや枝を食べてしまっているからです。これを「Deer Line(ディアライン)」と呼ぶそうです。
ディアラインを作っている証拠写真。
これはアラカシの樹。
この講座のなかではカシの仲間だけでも何種類も出てきました。
これはサイカチ。マメ科の植物です。
葉が特殊で、1枚の葉のように見えるのが大きな葉の1部なのだそうです。
世界遺産 春日大社原生林のほうへやってきました。
これはムクロジという樹。内部が風化し空洞になってしまいそこへ竹が生えてしまった珍しい姿です。
木の幹の生きている部分は表面だけである証拠として大変貴重な教材です。
桜の木をシカの食害から守るために取り付けられた囲いの内側だけに独自の自然が進みつつある例。
原生林にはたくさんの藤が生えています。奈良時代にこのあたりで権力を持っていた藤原氏の影響があるそうですが、それはこの講座では関係ありません。
蔓植物の藤が自分の太さよりも細い木にもたれ掛かるように生えています。どのように成長してきたのでしょうか?
元々太い木に巻きついて育ってきたのですが、先に枯れてしまったのでこのような姿になってしまったのだそうです。
ペラペラな幹のクスノキ。どうしてこのようになってしまったのでしょうか?
後ろへまわると、かなり巨大な幹であったかがわかります。
これが何らかの原因で、内部が腐って弱くなり、幹半分が枯れてしまったようです。
それでも成長を続けているというのはスゴイ生命力です。
これも先ほどのムクロジと同じ、木の幹は表面だけ生きていることがよくわかる大切な教材です。
おっとここはディアラインがありません。地面近くまで青々としています。
これは馬酔木(アセビ/アシビ)という樹で、葉に毒が含まれておりシカは食べません。
いかに奈良公園春日大社原生林の景観がシカに委ねられているかがよくわかります。
これはナギの樹。
幹の表面がシカの背中のようにウロコのような模様が入っています。葉は平べったいのですが、先が尖っており葉脈が見えません。針葉樹に分類されます。
元々日本には生えていなかったようで、1000年以上前に南方から持ち込まれたのが最初だとされています。
ナギは凪に通じ、繊維がしっかりとした葉は引っ張っても裂けないために、夫婦円満や縁結びのお守りになっているそうです。
春日大社の本殿近くの「天然記念物春日神社境内竹柏樹林」の碑。
竹柏とはナギのことです。ナギが持ち込まれて初めて自生しはじめたのが春日大社といわれているそうです。

ほぼ1日中、奈良公園春日大社原生林を歩きつづけてきましたが、これまでは春日神社には手つかずの原生林が残されて来ていると思いこんできましたが、神の使いとして大事にされてきたシカの存在で自然とは程遠い特異な環境になっている側面があることを教えていただきました。
シカを悪者にする気は全くありませんが、シカだけがあれだけたくさん住んでいることは不自然な景観を形作ってしまうということを我々も頭の片隅に入れておく必要はあると思います。